森林のはたらきには何がある?|あの日本学術会議が評価していた

私たち人間は、森林から木を切り出して木材にしたり、キノコを採ったりといった生産という本来的な機能のほかに、地球温暖化や山崩れを防ぎ、水源を涵養する、森林浴やレクリエーションの場を提供するなどの多面的機能があります。

一時期話題になった日本学術会議ですが、2001年に「地球環境・人間生活にかかわる農業・森林の多面的な機能の評価」というものを農林水産大臣に答申しています。

それによると、森林には木材生産などの「物質生産機能」のほかに、「遺資源や生物種の保全など生物多様性を保全する機能」、「二酸化炭素吸収による地球温暖化の緩和など地球環境を保全する機能」、「表土の浸食防止、防風、防雪など土砂災害防止・土壌保全の機能」、「洪水緩和、水資源貯留、水質浄化など水源を涵養する機能」、「気候緩和、大気浄化、騒音防止など快適な生活環境を形成する機能」、「散策、森林浴、行楽、スポーツなどの保健・レクリエーション機能」、「自然環境、学習教育、宗教・祭礼、伝統文化などの文化的機能」があるとしています。

その評価額の合計は、年間70兆2638億円にのぼっています。

すべての機能について金銭評価できないので、金銭評価できる機能だけを合計してみてもこの金額です。

金額の一番大きな機能が「表面浸食防止」機能で年間28兆2565億円となり、約40%を占めています。

これは、森林があることによって表土の浸食が防げている土砂の量を、堰堤で防ぐとしたらその建設費用はいくらかかるのかという代替法で計算しています。

つまり、森林があるおかげで、年間28兆2565億円もの公共事業をしなくて済んでいるということです。

次に大きいのが、「水質浄化」機能。

年間14兆6361億円との評価額が試算されており、森林のおかげでこの費用が削減されています。

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森林の防災機能

森林は、健全な状態に保たれることで、山地の侵食や崩壊を防ぎ、土砂の流出を防止するなど、私たちの暮らしを守る役割を担っています。

日本学術会議が試算した評価額、「表面浸食防止」機能年間28兆2565億円と「表層崩壊防止」機能年間8兆4421億を合計すると、土砂災害防止機能は、36兆6986億円もの金額になります。

森林では、樹冠、林床植生、落葉落枝の層が存在することによって、降雨による雨滴の衝撃が緩和され、土壌の崩壊や土砂の流出が少なくなります。

また、樹木の根は地下深くに伸長することで、地盤が滑りにくくなり、表層崩壊を防いでいます。

深く下へ伸びていく根は、地盤へ打ち込んだ杭の働きをし、横へ張り巡らされた根は、他の根と絡み合って網のようになり土壌を固定します。

このように、森林は山崩れを防ぐ働きをしていますが、この機能は樹木の成長と関係があります。十分な根の量が確保されて機能を発揮するには、およそ20年かかるといわれています。

また、枯れたり伐採された樹木の根は腐朽するため、伐採後10~20年の間にこの機能が最も弱くなり、表層崩壊の危険性が高まるものといわれています。

このように森林の防災機能は重要な役割を担っていますが、近年の集中豪雨では、有林地でも山崩れが発生しています。

これは、風化が進み、結晶粒子間の結合力が消失した花崗岩などの脆弱な地盤に起因するものと考えられます。

森林の水源涵養機能

日本学術会議が試算した金銭評価額ですが、先に述べたように「水質浄化」機能が二番目に大きな評価額でした。

さらに、水源涵養機能にひとくくりにできる機能は他に2つあります。

「水資源貯留機能」の8兆7407億円と「洪水緩和機能」の6兆4686億円です。

よって、「水源涵養機能」はこの3つの合計で29兆8454億円となり、「土砂災害防止機能」に近づくことになります。

河川の上流に位置する森林は、よく「緑のダム」と呼ばれています。

森林の表土には落葉や折れた枝などが堆積し、そこに多くの土壌生物が生息し、堆積物を分解して「土」を作っています。

その土は、土壌生物の働きによって多くのすき間のある団粒構造で、いわばスポンジ状になっています。

このため、降った雨や溶けた雪はスポンジ状の土に浸透し、ゆっくり時間をかけて地中を流れ、やがて河川に流出します。

落葉落枝にはこうした働きがあるために、自然公園法や森林法で落葉落枝の採取が禁止されているのです。

大雨のときでも水が一気に河川に流れ込まず洪水を防ぎます。

雨が降らないときは、土壌中にしみ込んだ水が少しずつ河川に流出するので、河川や地下水が枯れることがありません。

こうした洪水防止機能や水資源緩和機能が森林にあるので「緑のダム」と呼ばれているのです。

山に木が生えていないはげ山では、山地に降った雨は急斜面を流れ落ち、洪水を引き起こします。

山に木が生えていると、森林と森林土壌が水の流出を遅らせることによって、水資源の確保に役立っているというわけです。

このように森林による流出の平準化作用のおかげで、洪水や渇水の緩和につながっています。

しかし、近年、渇水期においては、森林の蒸発散による水分消失が蓄える量よりも大きくなることから、水源かん養機能の評価が難しくなっています。

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