大万木山は島根県県民の森の中にあってシンボル的な山になっています。その標高は1,218mで広島県との県境に位置しており、島根県で6番目に高い山。
島根県側では「おおよろぎさん」と呼びますが、広島県側では「おおまんぎやま」とそのまま読んだだけの山名で呼ばれていたそうです。ただ、国土地理院地図には「おおよろぎ」とふりがなが振っていることから、今では「おおよろぎさん」と呼ばれるのが一般的なのでしょう。
他にも「大ゆるぎ山」とも呼ばれていたそうで、権現ルート中腹にある「武智神社・大万木権現」は、大きく揺らぐ山体を鎮めるために祀られたものだとか。
そして、この大万木山は733年に完成した「出雲国風土記」にも「多加山」という名で登場していることから、古くからその存在が知られていた山でもあります。また、大万木山の南東にある草峠(くさんだわ)も「荒鹿坂」という名で登場し、風土記の時代にはすでに関所を置いていたと記されており、備後国と出雲国を行き来する人を検査していたものと思われます。
そして、滝見ルートは明治時代の頃までは出雲と備後を結ぶ重要な交易ルートだったそうで、石見の海岸部からはこの道を通って高野山(庄原市高野町)まで海産物が運ばれていたとのこと。このルートを「門坂越し」といい、途中には峠越えの安全を祈った地蔵尊が祀られています。
いにしえの人たちもこの山を見上げ、何度も行き来していたであろう道を今自分が歩いているのかと思うと感慨深いものがあります。
さて、この大万木山の山頂付近は島根県内でも有数のブナ原生林です。山頂直下には雪上伐採の影響で形成されたと考えられている「あがりこブナ(通称タコブナ)」があるので、頂に着いたら立ち寄ってみてください。山頂からすぐの場所にあります。
登山道は明瞭快適(権現ルートは除くかな?)で、避難小屋やトイレも完備。道標も分岐点などには設置されているので、道に迷うことはまずないでしょう。展望はあまり期待しない方がいいです。
雪深い山のため北方系の植物が分布されていて、山頂から北東側には雨に濡れると白い花びらが透明になるという不思議な多年草の花、山荷葉(サンカヨウ)[5月中~6月上]の自生地が広がり、舞鶴草(マイヅルソウ)[5月下~6月中]や鬼下野(オニシモツケ)[6月]の群落も見事です。
特にサンカヨウが有名で、通常であれば雨が降れば山行中止になるところを、この大万木山は多くのハイカーで賑わいます。サンカヨウのガラス細工のように透き通る花びらは神秘的で、とても美しいです。
登山口
メジャーな登山口は飯南町にある3つの登山口。滝見ルート登山口、権現ルート登山口、渓谷ルート登山口です。また、滝見ルートの途中に地蔵尊駐車場があるのでそこから登ることも可能。他にも琴引山・草峠からの縦走路や、毛無山からの縦走路、等検境からの縦走路があります。
駐車場については、県民の森だけあって豊富に整備されています。滝見ルート登山口にある門坂駐車場。渓谷ルート登山口にある位出谷駐車場。そして、地蔵尊駐車場に草峠からの縦走路途中にある大階段下駐車場です。これだけあれば、どこに停めてどこから登ろうか迷います。といっても「門坂駐車場」しか利用したことがありませんが。
バスはなさそう?なので、マイカーで行きましょう。
登山ルート
飯南町にある3つの登山口から登るルートが一般的かな?最短ルートで登りたい人は地蔵尊駐車場から登っています。
①滝見ルート:山頂まで約3.1km 120~140分
②権現ルート:山頂まで約1.8km 100~120分
③渓谷ルート:山頂まで約2.8km 90~110分
④地蔵尊駐車場から:山頂まで約1.6km 約70分
また、この3つの登山口を結ぶ横手ルート(約1.3km約30分)もあるので、ぐるっと周回も可能。
おすすめは、滝見ルートと渓谷ルートでぐるっと周回するコース。右回りでも左回りでもお好きな方で。
権現ルートは急しゅんな箇所が多いので、下りで使うときは注意が必要です。
渓谷コースの龍門滝上方の森林は、樹齢100年に近いブナ・ケヤキ等の落葉広葉樹が広がり、この中を歩きます。新緑と紅葉の時期は、その美しさに誰もが惚れ惚れすると思います。
ただ、滝見コースの権現滝から地蔵尊にかけての森林は薪炭林跡地だそうで、その名残が強いせいかやや貧弱な森になっています。
頂上部はなだらかな山容であることから、稜線に出ると気持ちのいいトレイルが続きます。地蔵尊あたりから草峠と峡谷ルートの分岐点までの区間、権現コースの大万木権現から山頂までの区間は本当に気持ちのいいトレイルで、思わず走り出したくなるような道です。
山頂は広いですが展望はありません。すぐ近くに展望台があるのでタコブナを見たついでに立ち寄りましょう。ただ、見ても山ばっかりの景色ですが。
大万木山、本当にいい山です。ぜひ登ってみてください。どうせなら、サンカヨウの咲く時期に。
あ!マイヅルソウが咲く時期も訪れてみたいなー
※注意事項
登山ルート等の内容については、誤解や虚偽のないものであるよう努めていますが、経年変化や、災害による一時的な変化によって、記載された状況が変わっていたり、解釈に見解の相違が生じたりすることがあります。山行の際には、ご自身でも最新の情報を収集してください。