牧歌的風景に出会える雲月山に登る

今回ご紹介する山は、広島県と島根県の県境にある標高911.2mの雲月山です。

かつて、東側の山腹を超える雲月峠付近は、戦のあった古戦場跡地で当時は「右津々木多和(うつつきたわ)」と呼ばれていました。

山名については、「うつき」と書かれている古い書物もありますが、「うんげつさん」「うづきやま」など様々な呼び方があることから、地元が協議して昭和38年から「うんげつざん」と統一した呼び方にしています。
しかし、今なおガイド本でも「うづきやま」と記載されていたり、「うんげつさん」と呼ばれていたりと統一はされていないのが実情です。私も「うづきやま」と呼んでいます。

雲月山は、かつて農耕用の牛や軍馬の放牧が行われていた山で、安山岩と閃緑岩からなる山です。
1997年を最後に一時中断していた山焼きも2005年に復活したことから半自然的な草原が保たれている山です。
一時期は、谷や標高の低い場所から樹木の侵入や成長で森林化していたそうです。
広島県で現在山焼きが行われているのは、安芸太田町の深入山とこの雲月山だけとなりました。
春に行われる山焼きが終わり、若草が山肌を覆ってくると緑のじゅうたんを敷き詰めたような優雅な山容になります。
見た感じは深入山や道後山に似ていますが、かなり小ぶりな山です。逆にその小ぶりさがこの山の良さを際立たせています。
それは、狭い面積の中に小さなピークがいくつもあり、尾根筋、谷筋も明瞭で豊富にあるからなのかもしれません。そして、そのおかげか、狭い面積の中に多様な植物が生息することとなり登山者の目を楽しませてくれています。

展望台下の駐車場を起点にぐるりと一周しても1時間半程度で回れます。
その駐車場の標高も795mほどあり、山頂との標高差は115m程度しかなく小さなお子さんも難なく登ることができる山です。

岩倉山から高山と雲月山
岩倉山から高山と雲月山を望む
初秋の雲月山
初秋の景色(2009年当時)

そして、実は希少性の高い動植物が残る山だったりもしています。
その証拠に、この雲月山は野生生物保護区として指定され、ある特定の動植物の採集が禁止されています。動物では、「ヒメシジミ」「ゴマシジミ」「ヒメヒカゲ」の3種です。
お恥ずかしながら、その名前を初めて聞いたときは「何それ?」「シジミの一種?」と思いましたが、調べたところ3種ともチョウのことでした。
そういえば草原では大きな網を持ってチョウを採集している人をよく見かけます。この山もそうした人たちの採取によって、希少なチョウに絶滅の恐れがあったということなのかな。
多くの登山者が入るとどうしても希少生物は絶滅しがちになります。雲月山は人気の山ですから。本気で希少生物を守りたいのであれば、登山者の方を入山規制するしかないのではと思いますが、観光資源としての役割などもあるのかそのバランスが難しいのでしょう。

雲月山希少植物

フシグロセンノウ、フシグロ、オキナグサ、シラヒゲソウ、ウメバチソウ、ワレモコウ、ヒゴスミレ、チシオスミレ、アカネスミレ、アケボノスミレ、アカモノ、レンゲツツジ、アラゲナツハゼ、リンドウ、アケボノソウ、センブリ、ムラサキセンブリ、フナバラソウ、スズサイコ、ツクシコゴメグサ、シオガマギク、オオナンバンギセル、オミナエシ、マツムシソウ、キキョウ、オケラ、モリアザミ、リュウノウギク、ホクチアザミ、ハバヤマボクチ、オヤマボクチ、ササユリ、ホソバシュロソウ

中国地方の多くの山々はタタラ製鉄や炭焼きなどで多くの木々が伐採されていました。今では植林やアカマツ林に覆われその痕跡が残っている山は少ないですが、この雲月山は今でも草原が維持されています。

雲月山の広島県側の斜面をよく見ると、幾筋かの溝が見えます。カンナ流しと呼ばれる溝です。この山は、山肌にカンナ流しの水路跡が遠くからでも確認できる数少ない山といわれています。
カンナ流し(鉄穴流し)というのは、タタラ製鉄に際して、砂鉄を多く含む岩石を砕いて、水路に流していたものです。そうすると、比重によって重いものは先に沈み、最後に比重の小さな砂鉄が残るのです。その砂鉄を取ることで、純度の高いものが得られるというわけです。
しかし、タタラ製鉄によって多くの森林が失われたばかりでなく、カンナ流しによって大量の土砂が川に流され、海や湖が埋め立てられてしまいました。広島平野が広がっていったのもこれが原因の一つなのでしょうね。島根県側では江戸時代の初めに、カンナ流し禁止令が出されたそうです。

仲ノ谷と呼ばれる場所が最も深い谷に当たる部分なので、ここで採取していたのかな?
ちなみにこの仲ノ谷を流れる水は、滝山川となり滝山峡をつくり、温井ダムへと流れて加計町で太田川と合流し広島湾へと流れています。
広島湾へ注がれる水の最も遠い場所にある山といえる?

雲月山仲ノ谷
結構な水量がある仲ノ谷
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登山口

雲月山登山ルート図
地理院地図(ベースマップ)を元に運営者が作成したもの

バスでのアクセスは不可能です。よって、車で行くしかありません。
アクセス道は林道ではなく県道なので楽勝イメージがありますが、最後のほうは狭いクネクネ道でした。

駐車場が2箇所用意されていますが、どちらに停めても大差ありません。歩いて10分程度の距離ですし、トイレもどちらにもあります。

左回りなら雲月峠から、右回りなら展望台下駐車場が登山口となります。
雲月峠からの登山道は2本ありますが、峠寄りのほうが傾斜は緩やかでした。

雲月山展望台下駐車場からの景色
展望台下駐車場から展望台を見上げる
雲月峠登山口
雲月峠駐車場から岩倉山を見上げる

岩倉山へ登る途中、左手の山肌に旧芸北町の町章をかたどられたスギの木が見られます。10年ほど前は小さかったですけど、大きく育ってました。

岩倉山から旧芸北町章
旧芸北町の町章

登山ルート

代表的なルートは、展望台下駐車場に車を停めて左回りにぐるりと一周するルートかな?

展望台下駐車場から車道を雲月峠まで10分ほど歩き、岩倉山、高山を順に踏んで雲月山へと登り、沖ノ谷へと下って登り返すルートです。
峠よりの登山道から入り、岩倉山まで登ります。10分もあれば登れるでしょう。そのまま県境の稜線を進むと急坂となり一旦鞍部へと下ります。鞍部へ下ると分岐点があり、左手の道は展望台下駐車場から最短ルートで来られる道です。
登り返しとなる道も高山へ登る道と巻道の2つ道がありますが、せっかくですから高山に登りましょう。ちょっと急登ですが5分程度で登れます。
高山山頂からの展望は雲月山より素晴らしいのではと思うので、しっかり展望を満喫しましょう。
また一旦下りますが、ここから穏やかに登る道を歩いていくと雲月山山頂です。
登り下りを繰り返しますが、標高差は僅かできつさはありません。稜線漫歩の道で小さなお子さんでも歩くことは可能です。県境の稜線ですが日本海がかなり間近に見え、牧歌的風景はゆったりとした心持ちにさせてくれます。
新緑の時期、あざやかな緑の絨毯一色の風景もいいですが、秋の時期もなかなかいいものです。写真のように黄金色に染まる山並みも美しいです。

岩倉山から日本海を見る
日本海が近い

地図を見ると確かに広島県では一番日本海に近いところかもしれません。
雲月山への山頂へは、峠から40分程度で到着。展望はやはり高山山頂のほうがいいような気がします。

雲月山山頂からの眺望
雲月山山頂からの眺望

下山は引き返さずにそのまま県境の稜線を歩きます。こちらの道も展望に優れるのでなかなかいいです。
標高859m地点で県境と分かれ、しばらく尾根道を進むと沖ノ谷へと下る急坂が現れます。
仲ノ谷まで下るとそこから展望台下駐車場まで急登を登り返します。急登といっても10分もあれば着くのであっという間です。遠くから見るとかなりの急登に見えますが、それほどきつくはありませんでした。

下山中に見える景色
下山中に見える景色。駐車場への登り返しが急登だとわかる。

のんびりしたハイキングに最適な雲月山。
雪山として訪れたことはありませんが、スノーハイクも楽しそうな山です。
四季折々のすばらしい表情を見せてくれるいい山だと思いますのでぜひ訪れてみてください。
野生生物保護区であることは忘れずに。

※注意事項
登山ルート等の内容については、誤解や虚偽のないものであるよう努めていますが、経年変化や、災害による一時的な変化によって、記載された状況が変わっていたり、解釈に見解の相違が生じることがあります。山行の際には、ご自身でも最新の情報を収集してください。

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