ファーストエイドとは何か

ファーストエイドと聞いて陥りやすい間違いは、その言葉が治療や診断を意味していると勘違いしてしまうことです。

自分が医者でも看護師でもないのであれば、そもそも治療や診断、薬の処方などを行える権限も技術も、知識もないはずです。なまはんかな医療行為の真似事は、いい結果を招きません。

逆に、登山パーティの中にお医者さんや看護師さんがいれば、心強く感じます。

では、ファーストエイドとは何か。

それは、ケガや病気になっている人を発見してケアを行うとき、その人が医療機関に引き渡されるまでの間、その状態の悪化を防ぎつつ現状を維持する作業のこと。

起こってしまった事故はもとに戻せません。医療機関に行ったときに最善の治療が行えるように、また回復の妨げにならないように行う現場の応急措置が、すなわちファーストエイド。

端的に言えば、事故に遭った状況と医療機関との間に存在する時間と距離を最も短くする作業がファーストエイドです。

では、そのファーストエイドにおいて、具体的に何をすればいいのでしょうか。

自分の家族や仲間はもちろん、見ず知らずの人であっても、トラブルにみまわれている人を助けてあげられないよりは助けてあげたいです。

でも、多くの人がそれを実行できず、後ろめたさを持ちながらもただ傍観しているだけのやじ馬、あるいは見なかったふりをして足早にその場を去る人になってしまうのではないでしょうか。

その理由の大きな要因のひとつは「何をどうすればいいのかわからない」からです。

応急手当や救命手当、救助方法の講習やトレーニングをプログラミングしている機関はたくさんあります。

ただし、いずれの講習でも緊急の医療的ケアに関しては、教える手法や符丁は違っていても、教える内容に大差はありません。というのも、いずれの内容も世界的な医学コンセンサスに基づいてプログラミングされているからです。

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事故対応の手順

1.周囲の観察

「危険」というキーワード。ファーストエイドを行うことで、自分自身が危険な目にさらされはしないかを確認しようというステップ。

猪突猛進するのではなく、いったん止まってひと呼吸置き、自分の安全をまず確保してから被害者にアプローチする。

つまり二次災害を防止するということです。

土砂災害の現場などでも、すぐに救助に向かうのではなく、二次災害の危険性はないか確認し、ないと判断したのちに救助に向かうことと同じ意味です。

救助に向かった多くの人たちが、新たな土砂災害に巻き込まれた。ということだけは避けたいということです。

でも、実際は我が子が倒れてたら、すぐに駆け寄るでしょう。

自分の安全なんか無視して駆け寄るでしょう。

それは、他人事ではなく、自分事だからです。それが人間というものです。

2.傷病者の観察

二次事故(災害)の危険がない場合、あるいは危険を排除した後は、直ちに手当・通報すべき傷病者であるかどうかを判断します。

直ちに手当・通報すべき傷病は、「意識障害・気道閉塞・呼吸停止・心停止・大出血・ひどい熱傷・中毒」です。

まず全身の観察をします。
ここで、大出血など直ちに手当・通報すべき傷病である場合は、すぐに3へ飛びます。

そして、生命の徴候を観察します。反応(意識)があり呼吸がある場合でも、生命の危機が迫っているときがあります。

生命の徴候は

①傷病者の反応(意識)の状態の観察
ア.反応(意識の)の状態を調べる
→軽く肩を叩きながら、耳元で大きな声をかけます。
→何らかの反応があっても、応答ができない、目的のある仕草が見られないときは意識障害があると判断します。
イ.目の状態を調べる
→瞳孔の状態や目の動きを観察します。
ここで、反応(意識)がないと判断したらすぐに3へ飛びます。

②傷病者の呼吸の状態の観察
→傷病者の口・鼻に頬を近づけ、傷病者の胸を見て呼吸の状態を観察します。

③脈拍の状態の観察

④傷病者の顔色、皮膚の状態の観察
→顔色や手足の色などを見ながら、皮膚に触れて温度や乾湿の状態を調べます。

⑤傷病者が手足を動かせるの観察
→傷病者が自分で手足を動かせるかを調べます。

少しでも生命の危機に陥る危険性があり、専門の資機材を必要とする場合は次の3へと進みます。
そうでなければ、6の悪化を防止するための応急手当へ飛びます。

3.119番通報とAEDの依頼

反応(意識)がなければ、協力者を求めます。周囲の人に119番通報とAEDの手配を依頼します。

また、傷病者が直ちに手当・観察すべき傷病であれば同様の手配を依頼します。

自分ひとりしかいない場合は、自分自身で119番通報し、AEDがすぐ近くにあることが分かっていれば取りに行きます。

ただし、山の中ではAEDはまずないと思われるので、119番通報のみとなります。

大出血などの場合は、6の救命のための応急手当に飛びます。

4.呼吸の確認

傷病者が心停止を起こしているかを判断するために呼吸を確認します。

呼吸を確認するために、頬を相手の口・鼻に近づけるのではなく、10秒以内で判断するために傷病者の胸部と腹部の動きを観察します。

普段どおりの呼吸がない場合、あるいはその判断に自信が持てない場合は、すぐに5へ進み胸骨圧迫をします。

呼吸が認められたら、気道を確保し回復体位にして観察を続け、救助隊の到着を待ちます。

5.心肺蘇生

心肺蘇生法は胸骨圧迫と人工呼吸を繰り返します。方法のガイドラインは5年ごとに見直されていますので、細心のものを確認するようにしてください。

ちなみに、2021年6月13日現在で日本医師会の救急蘇生法を確認すると次のようになっています。

①胸骨圧迫を30回(強く・早く・絶え間なく)

・1分間当たり100~120回のテンポ

・胸が少なくとも5cm沈むように

・中断は最小限に

②気道を確保して人工呼吸を2回

・1回1秒かけて吹き込む

・胸が上がるのを確認する

・胸骨圧迫の中断が10秒以上にならないように

なお、傷病者が大人の場合は、人工呼吸の技術と意思があれば行いますが、できない状況では胸骨圧迫のみを行うこととされています。ただし、傷病者が小児の場合は、人工呼吸は必須です。

6.救命のための応急手当、状態の悪化を防止するための応急手当

外部出血が確認出来たら、すぐに止血を行います。

止血の初期対応は直接圧迫。ガーゼや清潔な布で出血部分を強く圧迫します。

直接圧迫に加えて、患部を心臓より高くする高揚法も併用すると効果的です。

その他にも必要な応急手当を施します。

7.回復体位と保温

傷病者の呼吸を確認し、普段どおりの呼吸があったとき、または心肺蘇生により呼吸が回復したときは、窒息しないように気道を確保した回復体位にし観察を続けます。

また、ショックに陥った人を適切にケアするには、体温調整のサポート、回復体位などが必要です。

できるだけ相手の苦痛を和らげ、症状を悪化させないようにして休ませてあげます。

意識がある場合は希望する最も楽な体位をとればいいですが、意識がないときは、回復体位をとらせましょう。

そして、体温の保持です。

寒さを訴えたり震えたりしているときは、体温を逃さないように保温してあげます。ウェアが濡れている場合は、乾いたものに着替えさせてから保温しましょう。

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