ブナの純林に包まれた神話の比婆山登山|確かにここにはイザナミの神が

比婆山は、広島県の北東部に位置し、竜王山、立烏帽子山、池の段、御陵、烏帽子山、毛無山、伊良谷山、牛曳山と馬蹄形に連なる連峰のことであり、本来、ひとつのピークに付けられた山名ではありません。

狭義では、烏帽子山(1225m)、御陵(1264m)、池の段(1279m)、立烏帽子山(1299m)、竜王山(1256m)の5峰をいいます。

日本に現存する最古の歴史書、古事記には『故其所神避之伊邪那美神者葬出雲國與伯伎國堺比婆之山也』「故、其の神避りましし伊邪那美神は、出雲国と伯伎国との堺の比婆之山に葬りき」(かれ、そのかむさりまししいざなみのかみは、いずものくにとははきのくにとのさかいのひばのやまにはぶりき)とあり、このたった26文字の漢字の文章が「古事記」の比婆山神話になります。

日本の国土を生んだとされる女神イザナミと夫のイザナキ。
古事記によると、初めに淡路島を生み、次に伊予之二名島(四国)、三番目に生んだのが隠岐之三子島(隠岐)。そして、筑紫島(九州)、伊岐島(壱岐)、津島(対馬)、佐度島(佐渡)と生み、最後に大倭豊秋津島(本州)を生みました。この八つの島を大八島国といいます。
これは、イザナミとイザナキは、古代イスラエル王国の滅亡とともに逃亡し、アジア大陸を横断してきた預言者イザヤといわれており、日本の島々を見いだした順番とも考えられています。2番目に見つけた四国には今なお多くの伝説が残っていますが、本州がなぜ最後まで発見できなかったのか、今の時代で考えると不思議でなりません。

そして、多くの神々を生みました。石の神、土の神、海の神、風の神、山の神、穀物の神。ありとあらゆる神々を生みましたが、最後に火の神であるヒノカグツチを生むと火傷を負い亡くなります。
その遺体を出雲と伯伎(伯耆)の堺にある『比婆之山』に葬ったというのです。
これだけの文章から、どこが一体「比婆之山」なのかを判明させることは難しく、広島県と島根県、鳥取県の3県に約10か所の比婆山伝説地があります。

しかし、この主峰である御陵は、古事記にある国生みの女神イザナミが眠る「比婆之山」の御陵として、古くから信仰されてきました。
御陵の南、竜王山の麓には遥拝所である熊野神社があり、人々の崇敬を集めていたのです。
また、御陵には円形を描いた巨大な岩場があることから、他の場所よりもここに一時期イザナミが葬られたと見るのが正しいと考えられます。
一時期というのは、その後の日本書紀で伊弉冉尊(いざなみのみこと)は、「紀伊国の熊野の有馬村に葬りまつる」と記載されているからです。その場所は、今日では「花窟神社」とされ、高さ約70メートルの巨岩が御神体となっています。
よって、出雲国と伯伎国にまたがる比婆之山に埋葬された後、その墓が熊野の有馬村に移設されたものと推測できます。なぜ移設されたのか、誰が移設したのかはわかっていませんが、出雲国といえばスサノオが八岐大蛇を退治した場所です。もしかしたら、息子のスサノオが?との思いが残ります。

この地、御陵やその周辺は神域として畏怖され、古くから守られてきました。
周囲にはイザナミ・イザナキ・スサノオにまつわる伝説も残り、「烏帽子岩」「神籠石」「投石」など、それ自体が神格化した巨石も多くあって、神秘的なたたずまいを見せています。

また、広範囲に残るブナの純林は天然記念物に指定され、比婆山の重要な魅力の一つです。特に新緑や秋の紅葉はすばらしく、県内随一のブナの名山で冬はスノーハイクが楽しめます。

比婆山の新緑
春の新緑
紅葉の比婆山縦走路
秋の紅葉
雪の比婆山山頂
冬のスノーハイク
登山・山登り・ハイキング・トレッキングツアー
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比婆山登山ルート

一般的には、広島県民の森を起点とし、出雲峠へ行き烏帽子山、御陵、池の段、立烏帽子山を巡る反時計回りに歩くのが代表的なコースです。
それでも約5時間の歩行時間、約11kmの歩行距離となるので、自信のない人は烏帽子山と御陵だけ登ることもできます。

また、先に述べたように狭義の比婆山は、烏帽子山御陵池の段立烏帽子山竜王山とあるので、すべての山に登るのであれば、立烏帽子駐車場に車を停めてここを起点に巡るのもありです(竜王山の山頂近くにも駐車場あり)。

立烏帽子駐車場の標高は約1175mもあり、また、縦走路のアップダウンもそれほどきつくないので、かなり楽に巡ることができます。また、巻道もあるので復路は違うルートを歩くことも可能です。

立烏帽子駐車場までの道は狭くて時間も掛かるため運転に気を遣い、少し疲れますが、立烏帽子山から見た池の段の景色はその疲れは吹き飛ばしてくれるでしょう。特に秋の紅葉の時期は素晴らしいものがあります。

立烏帽子から見る紅葉の池の段
立烏帽子山から見る池の段

健脚な人であれば、牛曳山・伊良谷山・毛無山を加えた縦走がおすすめです。歩行距離約15km、歩行時間約7時間とかなり歩きごたえがあります。途中にエスケープルートや池の段や立烏帽子山へ行かない巻道もあるので、気軽にチャレンジしてみてください。

比婆山登山ルート図
地理院地図(ベースマップ)を元に当運営者が加工したもの

特に牛曳山の手前にはシラカバ林があり、6月上旬にはミヤマヨメナが咲き誇るので一度は訪れてみてください。

また、伊良谷山から登るルート、毛無山から登るルートも可能で、自在にルート設定ができるのも魅力です。

牛曳山のシラカバ林
シラカバ林
比婆山登山道に咲くミヤマヨメナ
ミヤマヨメナ

御陵に立っても眺望はありませんが、その他のピークに立つと眺望があって四季折々の景色を満喫することができます。
また、縦走路はブナの美しい森の中を歩くので、メリハリのある山行となります。

紅葉の比婆山縦走路
御陵付近のブナ林
池の段から見る紅葉の立烏帽子山
池の段から見る立烏帽子山
池の段からみる紅葉の比婆山
池の段から見る御陵
雪の比婆山登山
烏帽子山から見る毛無山・伊良谷山・牛曳山、遠くに大山も

また、烏帽子山から大膳原へ下りると野営場があります。そして、そこから吾妻山に登ることもできますので、コースに組み入れても面白いです。

大膳原野営場にはトイレもあるので、ここでテント泊するのもちょっと怖いですがありです。綺麗な星空を鑑賞できます。

烏帽子山から見る大膳原と吾妻山
烏帽子山から見る大膳原と吾妻山

新緑の比婆山、

比婆山縦走路の新緑

紅葉の比婆山、

紅葉の比婆山縦走路
立烏帽子山から見る池の段

そして、冬の比婆山、

雪の烏帽子山山頂

四季折々に素晴らしい景色に出会うことができる比婆山は、個人的には広島県で最もおすすめしたい山です。

4つの参詣路

イザナミの神が眠る御陵に向かって4つの参詣路があります。備後西口、出雲口、六ノ原口、備後東口です。

4つの参詣路を進んでくると、それぞれの遥拝所に至ります。そこから御陵へと登拝する4つの参道があり、登りきると4つの「山上の斎所」があります。そしてその先に、イザナミの神が眠る場所があるのです。

遥拝所「熊野神社」があるのは、備後東口です。第一鳥居をくぐり、参詣路を進むと遥拝所「熊野神社」へと辿り着き、参道を登りきると「山上の斎所」備後烏帽子岩があります。
備後烏帽子岩は見たことありませんが、立烏帽子山の近くにあるとのこと。

備後西口は、高野町にある大鬼谷オートキャンプ場の近くの下湯川という地名にある夜灯から遥拝所「比婆山神社」へ進み、参道を上ると「山上の齊所」七本拇(恵蘇烏帽子岩)があります。

六ノ原口の遥拝所は「山之神」と呼ばれる場所、「山上の斎所」は石村の齊所と呼ばれており、出雲口は比婆山神社と刻まれた常夜灯を超え、遥拝所は「大峠村の齊所」、「山上の齊所」は出雲烏帽子岩です。

こうした古い道をたどり、昔の人々がどのような気持ちでこの山を目指していたのかといったことに、思いをはせることも山に登る魅力の一つです。
歴史ある比婆山にそんな思いで登ってみる。便利さや効率さを追求する社会にあって、人として忘れかけている何かを見い出すことができるかもしれません。

※注意事項
登山ルート等の内容については、誤解や虚偽のないものであるよう努めていますが、経年変化や、災害による一時的な変化によって、記載された状況が変わっていたり、解釈に見解の相違が生じることがあります。山行の際には、ご自身でも最新の情報を収集してください。