頂上部は広々とした平坦地で、笹原が広がる十方山。
十方とは、四方(東西南北)と四隅(北東・南東・南西・北西)と上下の十方向のことで、山頂からの展望がそれぐらい優れているので十方山と名付けられたといわれています。
事実、山頂からの展望は抜群で、天気が良ければ四国の石鎚連峰や日本海まで見渡せ、圧巻のひと言です。
南北2つの峰に分かれていて、三角点のある南峰は1318.8mで北峰のほうが高く、その標高は1328m。
広島県では恐羅漢山、吉和冠山、旧羅漢山に次いで4番目に高い山。
ちなみに、県境に接しない山では、吉和冠山に次いで2番目に高い。
本来であれば頂上付近は樹木で覆われてもよいはずなのに、なぜ笹原が広がっているのか。
この山の森林限界が標高1200m付近に存在しているからといわれていますが、周辺の山々にはこのような森林限界はないため、どうも腑に落ちません。
ただ、道後山や吾妻山のように山地放牧がなされていたとの云われもないため、本当に森林限界なのかもしれません。
登山道は、どこまでも続く深いブナの森の中を歩きます。どこかで熊に出会いそうな、そんな奥深い山です。
恐羅漢山にはそんな雰囲気はありませんが、吉和冠山や寂地山そしてこの十方山などの西中国山地の山々に登る時は、いつ熊に出会ってもおかしくない雰囲気があります。
登山道で人に会うことは少なく、本当に静かな山です。
秋も終わると山で人に会うことはなくなり、雪で閉ざされてしまう山は少し寂しそうな表情を見せます。稜線を吹き抜ける風の音も強くなり、なんだか泣いているような声にさせ聴こえてきます。
立岩ダムの上流にある登山口から登ると、二つの遭難慰霊碑に出会います。標高1030m付近の三ツ倉と山頂手前のササ原の中にある遭難碑です。どちらも冬の登山により遭難されたものですが、山は常に危険と隣り合わせであることを痛感させられます。
登山ルート
登山ルートは、先ほど紹介した立岩ダム上流にある瀬戸の滝登山口からのコースと内黒峠コースと二軒小屋からの周回ルートがあります。
どれもバス便による日帰り登山は難しいので、自家用車でのアクセスが便利です。
どの登山口にも車を停められる場所はありますが、内黒峠にはトイレがありません。
どうしてもバスで行かれたいかたは、廿日市市が運行するコミュニティバス「吉和さくらバス」がクヴェーレ吉和又は駄荷と呼ばれるところまでバスを運行していますので、それを利用するしかありません。
土日祝だと宮内串戸駅の7:32発の広電バスに乗り、さいき文化センターでさくらバスに乗り換えて9:04に到着する便があります。最終はクヴェーレ吉和を17:48発に便があります(バスで行かれる場合は最新の情報を入手してください)。
ただし、ここから歩くことになる瀬戸の滝登山口まで約4.3kmあるので現実的ではないかもしれません。タクシーを手配したほうがいいのかも。
内黒峠の標高はすでに1000m近くあるので、山頂との標高差はあまりありませんが、「彦八」「彦八の頭」「丸子頭」「前三ツ倉」「奥三ツ倉」と多くのピークを縦走するので累積標高差を稼ぎ歩きごたえはあります。
また、二軒小屋も標高800m程度なので山頂との標高差があまりありません。こちらからのルートは若干物足りないので、水越峠から旧羅漢山、恐羅漢山へと登りスキー場を降りるルートも考えられます。
その他のルートとしては、那須集落から登るルートもあります。このルートは「ひろしま恐羅漢トレイル」のコースでもあるため、最近では登山道も明瞭になっています。
押ヶ峠断層帯
登山口のある瀬戸の滝入口の立岩ダムから坂根地区に至る約2kmの間に押ヶ垰断層帯と呼ばれる断層があり、これが国の天然記念物に指定されています。
断層が天然記念物?とお思いでしょうが、なんでも約2kmにわたり4個の丘陵(ケルンバット)が一直線上に並んでいる地形は、日本では他に類例少なくて学術的価値が高いとのこと。
ケルンバットとは、断層によってできた特殊な丘陵のことで、断層線に沿ってできるくぼ地をケルンコルと呼ぶそうです。
断層?という方も多いと思いますが、地盤に力が加わることで上下などに割け、ずれが生じた状態のもので、このずれたときの衝撃が振動として伝わるのが地震です。地表にずれが生じたものは「地表地震断層」と呼んでいます。
そして、この断層のうち、特に数十万年前から繰り返し活動し、将来も活動すると考えられる断層のことを「活断層」と呼んでいます。
要するに、地盤のずれた断層帯があって、片方の地盤には特殊なピークが断層帯に沿って4つ並んであるということで、これが学術的に重要な文化財とされています。
ちょっと難しくて、現地で見てもよく分かりませんでした。
見る人が見たら「お~!」ってなるのかな?
※注意事項
登山ルートに係る内容などについては、誤解や虚偽のないものであるよう努めていますが、経年変化や、災害による一時的な変化によって、記載された状況が変わっていたり、解釈に見解の相違が生じることがあります。山行の際には、ご自身でも最新の情報を収集してください。本サイトを利用して生じた損失や不都合などについては責任を負いかねます。