標高3000m級の稜線を歩く山旅|北岳と間ノ岳に登る

奥深いところへ来たな。広河原でバスを降りたときにそう思った。

身延駅から奈良田温泉まで約1時間半、奈良田温泉から広河原まで約45分。合計2時間以上もバスに乗っていたことになる。朝、広島から新幹線に乗り静岡駅までは順調だったが、そこから特急に乗り換えてからの身延駅までも長く、そして、バスも長い…。
やはり広島から日本アルプスへの山旅は不便だなと感じる。なぜ広島に住むことにしたのかとさえ思うときがある。しかし、移住するまでの覚悟はないのである。

広河原から見える空は狭いが、天気はまずまずといった感じ。今回の旅は、広河原から間ノ岳と北岳を周回する。今日の宿泊を含めて3泊4日の旅となる。

北岳といえば、日本で2番目に高い山であり、間ノ岳は3番目に高い山である。日本で2番目と3番目に高い山を結ぶ、標高3000m級の稜線歩きができる数少ない場所だ。
しかし、登山に興味がない人に「日本で2番目に高い山は?」と聞いて、「北岳」と答えられる人が何人いるだろうか。「3番目に高い山は?」と聞いて「奥穂高岳と間ノ岳」と答えられる人が何人いるだろうか。
たぶん0%に近いのではないかと思う。

それにしても、南アルプスの山名は硬派だ。北岳に間ノ岳、悪沢岳に赤石岳、塩見岳、聖岳と何だかお堅いイメージなのである。それに比べ北アルプスは、槍ヶ岳に剱岳、水晶岳、穂高岳、白馬岳、薬師岳と何だかオシャレだ。そう思っているのは私だけかもしれないが…。
実際の山容も北アルプスに比べると南アルプスは硬派な感じはする。

さて、今宵はバス停から歩いてすぐの場所にある広河原山荘へ泊る。テント泊と迷ったが、宿泊する人が少なそうなので小屋泊とした。最近、人が少ない時の小屋泊があまりにも快適すぎて抜け出せないでいる。さすが車でアクセスできる山小屋なためか、布団がふかふかで気持ちよかった。

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北岳山荘へ

翌朝、外に出てみるとピーカンの天気だった。天気が良いと気分が高揚する。天気に心が左右されるのはいつものことである。今朝はテントの撤収もないので、自炊した朝ご飯を駆け込み、足早に出発した。

今日は大樺沢を八本歯のコルへ向けて登り、どのピークも踏まずに北岳山荘を目指す。

登り初めは樹林帯の中を歩くが、高度を上げるにつれ空が広くなり北岳の頂が見えてくる。

大樺沢

大樺沢二俣には2時間30分程度で着いた。ここからコースは3つに分かれる。右に折れると北岳肩ノ小屋を目指す右俣コースで右後方に戻るコースは白根御池方面に行く。危険が少ないコースは右俣コースだが、今日は直進して八本歯のコルを目指す。落石に注意が必要でヘルメットは必須だ。

北岳バットレスを右手に見ながら登るが、すばやく通過したいため息が上がる。落石はやはり怖い。

北岳バットレス

振り返るとかなり標高を上げたことが実感できる。空気も乾燥しているので遠くまではっきりと見える景色は素晴らしい。

大樺沢振り返った景色

沢の源頭は急斜面で歩きにくい。沢から離れ小さな尾根に取りつき、ハシゴを登ると八本歯のコルに着く。大樺沢二俣から約2時間。さすがに疲れたので長い休憩をした。

目の前には、今日の目的地である北岳山荘と間ノ岳が見える。いつか家族で来たいなと思った。でも、大樺沢を登るのはちょっと厳しいかなとも思った。

八本歯のコル

池山吊尾根と呼ばれる尾根を北岳方面へと登る。少し進むと垂直に近い長いハシゴが現れる。ハシゴを超え、分岐を左に折れてトラバース道へと進み北岳山荘を目指す。

このトラバース道は有名な高山植物帯だ。キタダケソウなどの花々が咲く場所として有名だが、9月も半ばになると花はほとんど咲いていなかった。

北岳山荘へのトラバース道

緩い坂を下ると今日の目的地、北岳山荘に着いた。山荘の手前がテント場だ。早くに着いたため、眺めの良さそうな一番高い場所に設営した。テントから顔を出せば富士山が見える絶好の場所のはずが、あいにくガスが視界をさえぎっていた。

間ノ岳と北岳縦走

翌朝は、日の出前に起きた。テントから顔を出すと、富士山が目の前にどーんと現れ、一面雲海が広がっていた。なんだこの景色はと思った。心が震えるとはこういうことなんだと思った。そして、何枚もシャッターを押した。この景色をこの目に焼き付けておきたかった。

北岳山荘からの朝日

あまりの絶景のおかげで出発時間が遅くなってしまった。といっても、今日は間ノ岳へ登り、引き返して北岳に登り、肩ノ小屋までしか行かないので時間には余裕がある。今日は稜線をゆっくり歩き、稜線漫歩の世界を堪能したかった。

必要な荷物だけザックに入れ間ノ岳へ向けて出発する。左手に雲海の中から頭だけ出した富士山を眺めながら歩く。それだけで贅沢な気分にさせてくれる。標高3055mの中白根山まで登り、振り返ると北岳がどっしりと構えていた。甲斐駒ヶ岳や仙丈ケ岳も見えた。そして、前方には間ノ岳も顔を出していた。

中白根山から北岳

緩やかな坂を下り、すぐに登り返す。岩稜帯の西斜面を歩く。目の前に広がる絶景に何度も足を止め、シャッターを押す。時間は掛かるが存分に堪能したかった。

間ノ岳手前から

間ノ岳山頂は平坦で広々とした山頂だった。標識と多くの登山者がいなければ山頂の場所は気づかないかもしれない。

間ノ岳山頂

山頂では時間の許す限り滞在した。景色を見ながらのんびりしてしまった。静かに景色を眺めているといろんなことを考えてしまう。そして、一歩を踏み出す勇気が欲しいと思う。

山頂からの景色を堪能し、今来た道を引き返す。農鳥岳まで行けば、もう一つ3000m超の山を制覇したことになるが、また次の機会となる。

正面に北岳を見ながらゆっくりと歩く。背を向けていた景色も正面から見ればまた一味違う。いつまでもこの景色を見ていたいと思った。どこまでもこの道が続くなら、歩いていきたいとも思った。

北岳と北岳山荘

北岳山荘ですべての荷物をザックに入れ、北岳へ向けて歩き出す。池山吊尾根の分岐を過ぎると一段と険しくなる。ガスが上がってきて嫌な雰囲気が漂う中、すべりやすい場所を登ると山頂に着いた。

日本第二位の山頂からの眺めをかなり期待していたが、案の定ガスで何も見えなかった。ガックシである。しばらく待ってもガスは晴れなかったので、写真だけ撮って肩ノ小屋へ向けて出発した。それにしても登山者が多かった。

両俣小屋の分岐を過ぎ、急坂のザレバを下ると肩ノ小屋に着いたが多くの登山者で賑わっていた。テントを張る場所に相当困り、仕方なくあまり平たんではない場所に設営した。

夕方、テント場の回りを歩いてみると、甲斐駒ヶ岳が綺麗な勇姿を見せ、さらに多くのテントの花が咲いていた。

肩ノ小屋から甲斐駒ヶ岳

そして、見上げれば北岳が綺麗な姿を見せていた。今から登れば絶景が見られたであろうが、なぜか足が向かなかった。

肩ノ小屋から北岳
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広河原へ下山

最終日、広河原へ下山して広島へ帰る日となった。朝は南アルプスにいるのに、夜遅くには広島にいるのも何だか不思議な気分だった。

肩ノ小屋からの朝日も素晴らしかった。しかし、前日のダイナミックな雲海に比べるとなぜか物足りなかった。

肩ノ小屋から朝日

バスの時間があるため、足早に身支度を整え、濡れたテントをザックに入れて出発する。正面に甲斐駒ヶ岳と仙丈ケ岳を見ながら、厳しくない斜面を下っていく。樹林帯へ下りる前の最後の景色を堪能するために何度も立ち止まり、そして振り返って景色を目に焼き付けた。

小太郎尾根

小太郎尾根分岐から草すべりコースに入ると樹林帯の急坂へと変わる。小太郎尾根分岐まではあっという間だったが、そこから白根御池小屋までが長かった。綺麗な白根御池小屋を過ぎてから広河原までは、さらに長かった。しかもうんざりするような急坂である。広河原まで降りたときにホッとしたのを覚えている。

広河原からバスに乗り、奈良田温泉で汗を流して帰広した。また来たい。そう思わせてくれる北岳と間ノ岳、そしていいお湯の奈良田温泉だった。

※注意事項
登山ルート等の内容については、2014年時点のものです。誤解や虚偽のないものであるよう努めていますが、経年変化や、災害による一時的な変化によって、記載された状況が変わっていたり、解釈に見解の相違が生じることがあります。山行の際には、ご自身でも最新の情報を収集してください。

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