JRの山陽本線から芸備線に乗り換えると、ディーゼル車独特の加速感や振動、そして音に心地良さを覚える。しかし、このディーゼル車もいずれはエンジンで発電し、モーターを駆動させて走る電気式気動車へ置き換わるときが来てしまうのかと思うと、時代の流れなのだろうが少し寂しい気がした。
そんなことを思いながら車窓からの景色を眺めていると、緑井権現山と阿武山、北阿武山の稜線が綺麗に見えた。一方、土石流の爪痕もくっきりと残っていて、急しゅんな山裾に住んでいることを目の当たりに実感する。鬼ヶ城山腹の二十畳岩が見え始めるとディーゼル車は静かに減速し、上深川駅に着いた。
上深川駅で降りたのは、私ひとりだけであった。駅といっても駅舎や駅員がいるわけでもなく、ひっそりと静まりかえった駅にICOCAのピッという電子音が鳴り響いていた。
多くの車が行きかう県道の白木街道まで出て、少し戻るが広島市内方面へと歩く。三篠川を渡り、堤防の上にある歩道を川の流れと同じ方向へと進む。しばらく歩くと車一台がやっと通れるくらいの幅しかない橋が現れた。この橋を渡り、上流側に少し進むと木ノ宗山の登山口がある。随所に地元三鬼会の案内標識があり、迷うことはなかった。ありがたいなといつも思う。
今日歩くルートは、ここから木ノ宗山へと登り三田ヶ峠へ下り、そこから稜線伝いに歩き二ヶ城山山頂を目指す。そして、蝦蟇ヶ峠へと下り、さらに登り返して松笠山の頂に立ち瀧の宮へ下りて戸坂駅から芸備線に乗って帰るというものである。
いずれの山もかつては山城があった場所で、木の宗山城・二ヶ城・田原城と呼ばれていたそうだ。しかし、昔の人は毎日のように城を目指し登っていたのだろうかと思う。便利な社会が現代の人間の足腰を弱らせているのは間違いない事実なのだろうが、今となっては毎日山へ登れと言われても「お断りします」と言ってしまうだろう。
そんな昔の人々も歩いたであろう道を今日は歩く。
木ノ宗山へ
尾根に取りつくまでは急登で、すぐに息が上がってしまう。本当はダメな登り方なのだろうが、ひとりだとついつい登高スピードが速くなる。心肺トラブルを防ぐための安全な登山をするためには、300m/h程度のゆっくりとした登高スピードで案内しないといけないのだが…。
尾根に乗り一息つくが、まだそれなりの急登がしばらく続いた。しかし、急登の客観的な定義はあるのだろうかと思ってしまう。どうも個人的な主観に基づいているとしか思えない。私が急登だと思っても、これぐらいは急登ではないと思う人もいるかもしれない。年齢を重ねるたびに、急登箇所が増えてきている気がしてならない。
標高300mを超えたあたりからゆるやかな登りへと変わり、ずいぶんと楽になる。
小ピークを越えるとちゃんとした道標があった。登ってきた道は、地元の人たちによる踏み跡だと思っていたが、正式な登山ルートだったみたいだ。そこから10分ほど登ると山頂に着いた。
山頂からは山城の名残か素晴らしい展望が望め、特に広島湾方面への展望が良かった。
休憩もろくにせずに三田ヶ峠へ向けてすぐに出発したが、いまにも転げ落ちそうな激坂を下ることになった。慎重にゆっくりと下るしかないほどである。下りおりると「ここから急登」と書かれた標識があり、やはりここは誰もが認める急登箇所なのだと思った。
そこからは今までの急坂が嘘のようなゆるやかな坂を下る。すぐに現れた2つに分かれる分岐箇所を右に折れる。左に下ると「広島県史跡 銅鐸・銅剣出土地」へ行くみたいで、行くかどうかかなり悩んでしまった。また次の機会にしようと自分に言い聞かせ、右に進んだ。
しばらく下ると遊歩道的な道へと変わり、木の階段を下るとすぐに車道へ出た。
二ヶ城山へ
車道を少し登り、右手に見えた「木の宗山憩の森」と書かれた場所へと入る。すぐ現れた伝説の残る「わくぐり岩」を右手に見ながら進むと「二ヶ城山入口」の標識が現れ、消えかかった案内表示のとおりに進むと踏み跡の残る登山道となった。
ここからは、尾根道を登っていく。いくつもの小ピークを上っては下るを繰り返しながら標高を上げていく。隠れた小ピークの存在が現在地を惑わすが、三角点や高圧線、案内標識により現在地を地図で確認しながら比較的ゆるやかな道を歩く。広島湾岸トレイルのコースになっているせいか案内表示がうざくなるほど多い。
しかし、この道は変化がなく、景色も単調なせいか長いと感じる。まだかまだかと思ってしまう。高圧線をくぐるときに展望が開け、単調な景色に少しだけ変化をもたらしてくれる。
まだかと思えば思うほど、歩行スピードも上がりがちになる。マイペースでの歩行を心掛けないといけないと自分に言い聞かせる。
「ハイキングコース案内板」の登石バス停への分岐が現れ、そこから10分で馬木八幡神社への分岐が現れた。山頂はそこからすぐだった。
山頂からは白木山や木ノ宗山に歩いてきた山並みが見えたが、特に広島湾方面の展望が素晴らしかった。
長いこと休憩した後、蝦蟇ヶ峠へ向けて出発する。こちらも展望のない単調な道を下る。唯一展望が開ける場所は、やはり高圧線をくぐるときしかない。
しかし、落ち葉が積もるこの時期に、登山道には落ち葉がない。誰かが掃いてくれているとしか思えない。本当にありがたいなと思う。そんな道は単調な登山道を快適な登山道へと化している。滑る心配のない道は、思わず走り出したくなるような快適な登山道であった。
降りてみると、山頂からここまでの道はいい道だったなと思った。歩きたくなる道百選というものがあれば、個人的にはこの道をランクインさせるだろう。距離的にも程よい感じだし。
松笠山へ
さて、蝦蟇ヶ峠へ降りると菰口憩の森へと進む。綺麗な芝生公園から朽ち果てた休憩所の横を通り、登山道を松笠山へ向けて登る。山頂まではあっという間に着き、あまり展望もないので休憩もせずに写真だけ撮って出発した。
広島駅へバスで帰るのなら今来た道を戻り、戸坂中学校方面へと下るほうがいいのだが、電車で帰りたいため戸坂駅方面へと進む。少し下ると右手に車道が現れ、車道に並行して歩く。車道の突き当りには電波塔の地図記号があるが、今はなくなっている?
少し登り返すと三角点があり、こちらも快適な尾根道を進む。すぐに八畳岩と松笠観音寺への近道との分岐が現れる。時間があれば展望に優れた八畳岩へ行きたかったのだが、列車の時間に余裕がなかったので左に折れ近道を下った。芸備線は本数が少ないのでどうしても気にしてしまう。
そこから瀧の宮までが長く感じてしまう。太ももも踏ん張りがきかなくなってきた。そして列車の時刻も迫ってくる。列車を一本遅らせてゆっくり歩こうかと思っていたら瀧の宮が見えてきた。
ひんやりと冷たい空気に包まれた空間は、赤い紅葉を一層鮮やかにしていた。
いつ来てもここはいい場所だなと思ってしまう。自分と気の相性がいいのだと思う。
少し時間があったので、ほてった体をクールダウンさせ、歩いてすぐの戸坂駅から列車に乗り家路についた。
上深川駅→木ノ宗山登山口:約20分
→木ノ宗山山頂:約55分
→車道:約25分
→二ヶ城山山頂:約85分
→車道:約40分
→松笠山山頂:約25分
→瀧の宮:約40分
合計:4時間50分
歩行距離:約12.5km
上り累計標高差:約1,120m
下り累計標高差:約1,140m
※注意事項
登山ルート等の内容については、誤解や虚偽のないものであるよう努めていますが、経年変化や、災害による一時的な変化によって、記載された状況が変わっていたり、解釈に見解の相違が生じることがあります。山行の際には、ご自身でも最新の情報を収集してください。