山の天気が変わりやすいのは、複雑な凹凸がある山岳地独特の地形により、山の斜面を空気が駆け上がる上昇気流や下降気流が強制的に発生しているためです。
悪天候下での登山は、晴れているときと比べてリスクは5割増し、あるいは2倍増しぐらいに考えておく必要があり、山での天候悪化は登山者を窮地に追い込むさまざまな危険の誘因となります。
それは、次のようなリスクが潜んでいるからです。
・雨、雪、風、低温などは低体温症や凍傷を引き起こしやすくなり、高温は熱中症の要因となる。
・ガスや吹雪のときは道迷いが起こりやすく、強風は転落の直接的原因となる。
・雨や雪に濡れた岩場などは滑りやすくなる。
・落雷に対する逃げ場が少ない
このように、気象現象に潜むリスクは大きく、山の三大危険因子とされています。
一般的に山での天気の傾向は、
・山での天候悪化は地上より早く悪くなる。
・山での天気は地上より悪くなる。
・天候の回復も地上より遅れる。
といわれているので、「山の天気は怖い」との認識を持っておいたほうがいいといえます。
よって、行動中は天気予報等の情報をこまめにチェックするとともに、天気が下り坂になるタイミングや回復するタイミングが推測できるようになりたいものです。
そのためには、空や風、自然現象などを観察して気象変化を予測する観天望気の知識を学んでおくと役に立ちます。
雲による観天望気
天気が崩れる理由は、まず雲ができて、その雲が成長することによります。
よって、雲を観察することが天気を予想するうえで大切になります。
見上げた空が雲一つないピーカンであれば問題ないですが、見上げた空に雲があれば、その雲の量や形、変化を観察して気象変化が予測できます。雲から得られる情報は多いのです。
樹林帯の中を歩いていると空はよく見えませんが、見晴らしのいい場所に出たら空を見上げ雲を確認してみましょう。
「雲の量が増えてきた?減ってきた?」「薄い雲?厚い雲?」「モクモクした積雲系の雲?のっぺりとした層雲系の雲?」「上層の雲?中層の雲?下層の雲?」
天気が下り坂に向かうときには、雲量が増え、雲底が下がってくることが多いです。
また、雲形によっても天気の兆候をある程度予測できます。
「富士山の山頂に笠雲ができる」と雨になるといわれています。
空気が富士山の斜面にぶつかって上昇し、上空で冷やされてできた雲が「笠雲」です。
富士山のような高い山に笠雲ができるということは、空気が湿っていることを意味しているので、低気圧が接近していることを私たちに知らせてくれています。
このように、富士山に笠雲がかかった場合は、8割以上の確率で半日以内に天候が崩れています。
ただし、富士山を登山中のときは雲の中に入っているので、それが笠雲かどうかは判断がつかないのでご注意を。
山がよくガスるのはなぜ?
人間の目には見えませんが、空気中には水分が溶け込んでいます。
溶け込める水分量は気温によって決まっていて、熱い空気にはよりたくさんの水分が溶け込むことができます。
標高の高い山は、平地に比べると空気は冷たいですから、溶け込める水分量は少ないということです。
よって、斜面にぶつかった空気が地形による強制上昇で斜面を這い上がると、上昇するにつれ空気が冷えていくため、ある地点で溶け込める水分の限界を超えてしまいます。
その限界を超えたところで、空気中に溶け込んでいた水分が細かな水滴となって目に見えるようになるのです。
その目に見える水滴が、霧や雲ということ。
斜面にぶつかる空気が湿っているほど限界値が近いため、そこまで空気が冷たくない低い高度で霧や雲が発生してしまいます。
このようなことから、山の風上側斜面ではよくガスっているのです。
これは、冬の寒い日に吐いた息が白く見えることと同じで、体温で暖められた空気の中に含まれている水分量が、冷たい外気では保有できる水分量が少ないために水滴となって白く見えているのです。
あの白い息も、いってみればガスってるということ?!で、それはまた、天気の変化の兆候をつかむこともできます。
山の中で吐く息が白くなってきたら、温度が低下しているか湿度が高くなった可能性があるということです。
注意すべき雷雲の発達
強い日射によって地面が熱せられると、地上の気温が高くなり、大気の状態が不安定化します。
温度の違いによって起きる空気の移動、対流が起きるからです。
熱せられた地上に接する大気は、熱せられることで膨張し密度が小さくなります。そのため軽くなって上昇流を形成させます。
逆にそこには上空の冷たい大気が下降流となって入り込み、同様の過程を繰り返しているが対流です。
お湯を沸かすやかん内の水の流れと同じで、上空に寒気が入ってくればなおさら発生します。
その上下方向の空気の入れ替え運動で強い上昇気流が発生し、雷雲が発達するのです。
また、山の斜面に湿った風が吹きつけると、地形による強制上昇によっても雷雲が発生しやすく、これら複合的な要因で雷雲が発達しています。
山で会う雷雲ほど怖いものはありません。遠くでかすかに「ゴロゴロ」と雷鳴が聞こえたら、そのときはもう雷の射程距離に入っているので、なかなか怖い相手です。
ただ、空気が湿ってきたら音が伝わりやすくなるので、遠くの雷鳴も聞こえやすくなります。
風による観天望気
風は、地表面の摩擦によって減衰します。
上空ほど風が強まるのは、地表面の影響を受けにくいから。
そして、一般的には稜線付近は吹きさらしになることが多く、稜線を直角に横切る風向きとなりやすいです。
尾根道を歩いていると、片方向にだけ枝が伸びている木を見かけることがあります。ある特定の方向に強い風が吹いていることがわかります。
逆に谷間は相対的に風が弱いです。谷間の風は、尾根と違って谷に沿った方向に吹きます。
谷間は樹林帯であることが多いため、空がよく見えない場合があります。
雲からの情報を得にくいため、そんなときは、風向きに注目してみます。
「谷を這い上がる風か」「吹き下りる風か」です。
海岸付近の海陸風と同じように、山間部でも風の「日変化」があります。
昼間の「谷風」は、谷間に沿って下流から上流に這い上がる風。
夜間の「山風」は、谷間に沿って上流から下流に吹き下りる風です。
昼間の谷風は夜間の山風より強く、この昼夜の風の循環は、晴天日に見られる特徴となっています。
よって、夜なのに谷風だったり、昼なのに山風だったりしたら、悪天の兆候かもしれません。
3つの低気圧の性格の違い
周りより気圧の低いところを「低気圧」と呼んでいます。ある気圧以下を低気圧と呼ぶのではありません。
この低気圧は、発生場所によって大まかに3種類に分けられ、育ちも性格も違います。
熱帯産の低気圧は「熱帯低気圧」と呼ばれ、その活動場所は赤道寄りの暖かい海の上です。
中心付近の風が強まると台風となり、夏から秋にかけて日本にやってきます。
この熱帯低気圧の空気は高温・高湿で、中心に近いほど激しい気象となっています。その寿命は1週間程度で気象情報をチェックすることで確認できます。
台風は低気圧なので、地上風は反時計回り。つまり、台風の東側では南から湿った空気が大量に流れ込んでいます。
台風の中心が遠い西の場所にあっても、遠く離れた東の風上側斜面では強い雨を降らせる可能性があります。
このように台風は点ではなく、「面」として捉えることが大切です。
次に上層の強い西風(ジェット気流)の付近で発生発達するのが「温帯低気圧」です。単に「低気圧」とも呼ばれています。熱帯低気圧には前線が伴いませんが、この温帯低気圧には前線が伴います。
南からは湿った暖気が流れ込み、北からは冷たい寒気が流れ込んでいて、その空気の入れ替えによって発達していきます。
その暖気と寒気の境界線にあるのが前線ということです。
前線が停滞していて、上空の気圧の谷が近づくと低気圧が誕生し、前線の形が「へ」の字となり閉じた円形の等圧線の本数が増えて成長していきます。前線の形が「入」の字の形となった頃が成熟期で強風の範囲も広いです。
上層の西風に流されるように西から東に移動し、爆弾低気圧と呼ばれる発達するようなものは北東に進むものが多くなっています。
温帯低気圧の寿命は数日間から1週間であり、広範囲で雨天(冬だと雪)となり、発達すると広範囲に強風をもたらします。
低気圧の中心が近づいてくると北東から南東の風向きで、通り過ぎると北~西の風向きへと変化します。
3つ目の低気圧は、「寒冷渦」と呼ばれるもの。
どっしりと居すわり、上空の大量の寒気が悪天を呼び激しい雷雨の原因となります。
上層の西風が大きく蛇行すると、袋状となった一部分に寒気が閉じ込められます。
この上空に寒気を背負った動きの遅い低気圧を「寒冷渦」といいます。
寒冷渦の周辺部分では落雷、短時間強雨、突風が吹き、寿命は1週間から2週間となっています。
小規模ですが油断できない低気圧です。